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水上競技部
2016.12.28

リオパラ代表・一ノ瀬メイの義手を大特集!!義手を使った練習レポート!!

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リオパラ代表の一ノ瀬メイ(経営2)が使うトレーニング用の義手を大特集。パラ競泳では他のパラ種目と異なり、義足など義肢をつけて競技を行わない。

そのため、パラスイマーで義手をつけて練習する選手は世界でも少数。日本では、一ノ瀬が初めて。義肢をつけて競技を行うパラ陸上では、日本のパラアスリートの中にもベンチプレス用、自重負荷の筋トレ用など複数の練習用義手を使う選手がいる。

そこで、2020年の東京パラリンピックに向けて、まだまだ知られていない練習用義手の世界に迫るべく、一ノ瀬の練習用義手を使った筋トレに密着。義手についてのインタビュー、パラリンピアンならではの工夫が詰まった練習レポート、詳細な義手レポートの3部構成でお送りする。




INTERVIEW PART】

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―――義手を作る以前は右腕を鍛える練習はしていましたか?

高校の時は、右手にパドルをつけるぐらいしか、右手を鍛える練習はしてきませんでした。高校まではウェイトトレーニングもしてませんでした。

―――義手を作る以前に義手について知識はありましたか。

何も知らなかったです。普段義手を使っていないし、日本のパラ水泳で、使っている人がいないので全然知りませんでした。

―――義手を作る時に何かこだわりはありましたか?

中村ブレイスさんには、本物の手みたいなのではなくて、ロボットみたいな感じの義手にして欲しいお願いしました。義手は中村ブレイスさんに無償で作ってもらっています。

―――初めて義手をつけた時の感想を教えてください。

ただすごいと思いました。めっちゃ進むなーって印象でした。やっぱり、(義手を使って)両手で泳ぐ感覚を知っているのと、知らずに泳ぐのとでは全然違うと思います。

―――義手を使って泳ぎに変化はありましたか?

左右差が減ったことで泳ぐのが、楽になりました。

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―――twitterネーム・稜祐さんから頂いた質問です。右腕が短い分、泳ぐ時に意識していることはありますか?

twitterで募集してたの見てたけど、誰も送らんと思ってた(笑)。びっくり!!

意識してるのは、前でまつこと。左は水の負荷がかかるし、回す時間が長いから右手は前で待つ。たぶん、キックもバランス的に右足の方が強くなっています。足で補ってるイメージです。

―――最近は泳ぐのには、義手を使わなくなったそうですね。

どうしてもプルの時の抵抗が大きく義手が耐えられないのと、試合では義手をつけて泳ぐわけじゃないしいいかなーと思って、最近は陸上トレーニングの時のみ使っています。

―――義手をつけての筋力トレーニングの成果はありましたか?

義手をつけたことで、肩甲骨の動きがよくなりました。腕立てもできるようになりました。ずっとできひんと思ってやってなかったけど、やったら意外とできました。右手にも筋力がついて、前は10回こなすので精一杯だった種目が、今は10回4セットとかダンベルより、腕立てやった鍛えた方がいいやんってなりました。

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―――義手やトレーニング方法について他の選手と情報共有の機会はありますか?

情報交換とかは全然ないです。SNSで自分で見て知るくらい。カナダ合宿で義手をつけている選手がいて、見せてもらったりしました。日本のパラ水泳でつかってるのは自分だけなので。お互いに変なライバル意識があって、一緒のことはやりたくないみたいなのがあったりします。義手をつけることもそんな感じのところがあったりします。

―――パラアスリートの間で情報共有がもっとされるといいですね。

本当にその辺は、まだまだこれからだと思います。あまり義手について知らないです(笑)。詳しいことは、中村ブレイスさんに聞いてください(笑)。

<指導者とトレーナーの義手についての話>

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○山本貴司監督

「義手を使ってみたらどうや?と薦めたら、やってみたかったって言ったので、探してやろかって。両手で泳ぐ感覚を実感してほしかった。義手を使い始めてからは泳ぎが一段と進化したと思う。全体的な筋力もアップしてる。本人も義手つかって、こんな楽なんや!と言ってたのをよく覚えている。まだ義手のほうも進化できると思う」

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○鎌塚裕也トレーナー

「左右アンバランスだったのが、義手を使うようになって体の使い方がうまくなりました。下半身のトレーニングは他の選手と同じようにできても、バーが握れないの上半身を鍛えずらかったのが、義手を使い始めたことで、プル動作が出来るようになり、トレーニングのバリエーションが広がって、泳ぎに良い影響が出ていると思います。右腕も以前に比べてだいぶ太く、力強くなってきていると思います。腕立てもできなかったのが、きれいに出来るようになりました。自分もパラ選手のトレーニングを考えたりするのは、初めてでメニューは知恵を振り絞りながら作っています。日々発見が多く、試行錯誤を繰り返しています。2年教えてきて、色々わかってきたので、2020年の東京ではリオの時よりいいトレーニングが出来ると思います」




【TRAINING REPORT PART】


全種目のトレーニングの様子のほか、義手をつけるシーン(1分25秒頃から)を収録。

 <ブルガリアンスクワット>
下半身を鍛える種目は他の部員と同じ種目をこなす。鎌塚トレーナーによると、下半身の筋力スコアは部内でも強い方だという。

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<義手を右腕に装着>
前半に下半身の種目を行い、後半の上半身の種目の時に義手をつける。

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色違う2種類のシリコンで強度が出るようになっている。装着時には、義手内は真空になりしっかりと腕にフィットする。
義手の先につける金属のアタッチメントを六角レンチを使って固定する姿は、身体機能の拡張という近未来を感じさせる。

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<ケーブル・プルダウン>
義手の先にあるカラビナをマシンのハンドルを外して直接つなげる。

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義手を使うことで肩甲骨の動きがスムーズになったという。

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<ワンハンドロウ>
今度は、片手でケーブルを引く種目を行う。左右差は、義手を使った練習により、かなり解消された。

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義手を使うプル系のメニューが終わると片付ける。

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<ケーブル・クロスオーバー>
プッシュ系の種目は鎌塚トレーナーの徒手抵抗で偏りなく鍛える。

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<ショルダープレス>
鎌塚トレーナーによると、抑える方も最近は一ノ瀬に力がついて大変になったという。

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<プッシュアップ(腕立て伏せ)>
プライオボックスで高さを補う。大学に入るまで腕立てが出来ると思っていなかった一ノ瀬。最初はぎこちなくしかできなかったのが、最近は何セットもできるようになった。

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一ノ瀬オリジナルの12月期の筋力トレーニングメニュー

週2で筋力トレーニングを行う。プールでの練習は週に8回あり計10度の練習をこなします。週に1度休みがあり、ほとんどの日は朝夕の2回練習している。

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【ARTIFICIAL HAND PART】

図解

一ノ瀬の義手は、中村ブレイス製。近大OBの中村俊郎(昭和45年度卒)氏が創業した義肢装具メーカー・中村ブレイスが、初めて手掛けたスポーツ用の義手だ。

中村ブレイスは、人工乳房を始めとしたシリコン加工に強みを持ち、一ノ瀬の義手にもシリコン素材が採用されている。

水上競技部の山本監督が一ノ瀬の義手を依頼するメーカーを探していた際に、大学OBの中村氏が社長を務める中村ブレイスに白羽の矢が立った。中村ブレイスは一ノ瀬の水泳用(今は陸上練習のみで使用)の義手の技術を入浴用など、水に強い生活用義肢装具への応用も考えているという。

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トレーニング用を義手を入れているライトブルーのバッグ。イニシャルのMのキーチェーンがついている。中村ブレイスからは腕に似せた義手も提案されたが、一ノ瀬の要望によりパイプが剥き出しのデザインになった。

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このうち4つのパーツを組み立てて使う。左から2番目は予備の部品。

<パラスポーツ用具の値段>

日常生活用の義肢装具や車いすの購入は、障害者総合支援法により自己負担は1割で、その上限額は3万7200円と決められている。

一ノ瀬のトレーニング用の義手は、中村ブレイスが無償で製作しているが、スポーツ用の義肢装具、車いすの購入は、基本的に全額自己負担となっており、競技者への負担は大きい。

陸上競技の義足に使われるカーボンの板バネは、十数万円のものから百万円を超えるものまである。競技用の車いすも20万円から、トップ選手が使うオーダーメイド品では1千万円以上するのものあり、大変高価である。

スポーツ用の義肢装具や車いすは、市場規模が小さいことや、個々人に合わせて作る必要があるため、価格が高い。そのため、価格が気軽にスポーツを親しむための障壁の一つになっている。選手は自己負担や寄付を募って購入するほか、譲ってもらったり、レンタルして用具を確保している。

まだまだ、発展途上のパラスポーツ。しかし、そこには社会を豊かにするためのヒントがたくさん詰まっている。

2020年の東京パラリンピックを契機に、その先の社会がより良くなるように、近大スポーツ編集部はこれからも一ノ瀬メイ選手を通して、様々な情報を発信していく。

【近大スポーツ編集部】

<追加情報>

2016年12月31日公開のNTTドコモのCMで、同社所属の競泳日本代表・山田拓朗選手が、トレーニング用義手を使ってウエイトをする様子が放送された。



<過去の一ノ瀬メイの関連記事・動画>

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