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近大スポーツ編集部
2016.12.21

【独占取材】元日ハム社長・藤井純一氏が大学スポーツをぶった切る!

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2020年の東京オリパラを前に、問題山積の日本の大学スポーツ。アメリカでは、スポーツで稼いだお金を研究などアカデミックに投資し、大学全体のレベルを上昇させた例まである。

経営学部の元教授であり日本で唯一Jリーグとプロ野球を経営した経験を持ち、現在は池坊短期大学で学長を務める近大OB・藤井純一氏(昭和47年度卒)に、日本の大学スポーツの現状、そして大学スポーツの改革案を聞いた。




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藤井純一(ふじい・じゅんいち)

1949年生まれ、近大農学部卒。日本ハムで営業、広告担当を経て、Jリーグ・セレッソ大阪、プロ野球・日本ハムファイターズの社長を務めた。ファイターズを常勝軍団に育て上げた経営手腕、ドラフトで中田翔や斎藤佑樹を引き当てたことで有名。社長を退任後、2011年から3年間、経営学部で教鞭をとった。現在は、池坊短期大の学長。




大学スポーツはマーケティングが出来ていない

根本的に、大学スポーツはマーケティングが出来ていないよね。ビジネス云々という以前にまだクラブ活動の域を抜けていない。試合をやっても、関西の場合は客が入らない。学生も行かない。

そこが一番大きな問題で、せめて自分たちがやるプレーを見てもらおうという努力が、近大を始めどこの大学の学生にも足りないと思う。やはり、客を入れようと思うと、当事者が集客活動をしないと。

今、体育会云々じゃなく近大自身のスポーツに対する取り組み方が中途半端。大学としてスポーツの位置付けが明確になっていない。

例えば、立命なんかはスポーツ健康科学科があって、早稲田もそうだし、それが良いかどうかはわからないけど、位置付けが明確になっている。近大の経営学部の中には、スポーツマネジメントコース(※1)があるけど表に出てきていない。また、各クラブが明確な目標を持っていないような気がするね。

ファイターズでいう日本一。体育会の46のクラブのビジョンは何なのか。毎年毎年の目標設定が上手く出来てない感じがする。スポーツの位置付けを明確にして、大学のロイヤリティを上げる一つの手段としてスポーツをどう使うかが、近大の場合は大切になってくるね。

スポーツをしている高校生に近大に行きたいと思わせられるように、どうしたらかということが大切やと思う。そういう意味でも、ビジョンを明確にする必要がある。




※1スポーツマネジメントコース

スポーツ推薦の選手のみ在籍しており、経営学部の他の学科にはないスポーツマネジメントや運動生理学などスポーツ分野の授業がある。




東京五輪

(2014年の重点強化指定クラブ選定の記者会見資料)

大学のスポーツの位置づけを明確に

近大の東京五輪に向けた強化(※2)も目標と目的が明確でなかったら、お金付けて強化しても意味がないと思う。根本的に、近畿大学のスポーツの位置付けを明確にして、それを今後どう運営していくのか、どうしていくのかを考えないといけない。

いわゆる旧来的な日本の大学の体育会クラブ、スポーツ課のまま、過去の慣習を引き継いで、お金だけを投じていては意味がない。だから、目標を設けて組織を根本的に改革して、変えなければいけないと思う。せっかく広報があれだけできるんだから、やろうと思えばできるはず。

広報にしても、世耕石耕さん(現広報部長)が来て改革したわけでしょ。同じように、強いリーダーシップを持った人が来て、スポーツ全体を見直してもらう、位置付けを見直すというが一番大事だと思うね。




※2五輪に向けた強化策

東京オリパラに卒業生、現役合わせ10人を送り込むべく、2014年から東京オリパラまでの7年間、重点強化指定クラブに選んだ水上競技(競泳、シンクロ)部、洋弓(アーチェリー)部、ボクシング部、空手道部の4部に15億円を投じる計画。

ハード面では、水上競技部のプールの改修、寮の新設などが行われた。4クラブの年間予算は一千万円を超える規模。リオ五輪へは卒業生4人が出場し、現役はパラリンピックに出場した一ノ瀬メイ(経営2)1人。メダルは0に終わった。他大学では、日本体育大は東京大会に70人の関係選手を送り込む計画で、2017年度には20人のパラリンピック選手が入学予定。




いかにブレないクラブのスタイルを作るか

例えば、強化の方針はどうか。各クラブの方針は知らないが、監督任せなのかもしれない。なぜ、ファイターズが強くなったかというと、ドラフトで採ってきた選手を育成するというチーム全体の強化方針を決めたから。

監督が変わっても、何してもこのやり方はブレない。強化方針と3年先、5年先にどうするのかということを明確にした時に、いかにブレないクラブのスタイルを作るか。

例えば、近大のアメフトといえばスタイルはこうだと。そういったスタイルを明確にしていくことが大事だと思う。ヨーロッパのサッカーチームのバイエルン・ミュンヘンは、すごく強い。

クラブのスタイルが、監督が交代しようが、何しようが変わらない。トップチームもセカンドチーム、アンダー15も、例えば4ー4ー2なら全部が同じ方針でやるわけ。だから、誰かがケガをしても、下からすぐに持ち上げたらいい。強固な組織、考え方を作るべきだよね。信念を持ってどう選手を育成するかが非常に大事やと思うね。

近畿大学が各クラブをどう育成していくかを、スポーツ振興センターなりが明確に考える必要がある。クラブの監督に任せて強なれば良い、頑張って勝ってという世界ではダメだ。

そうなると、どういう施設が必要で、例えばどう言う環境にすべきだという話になってくる。僕はある意味では、今の環境は非常に悪いと思う。

各クラブも明確なビジョンを示せ

一番大切なのは、各クラブ自身が明確なビジョンを持つこと。選手は練習したら上手くなるけど、組織っていうのは積み上げていかなければできない。だから、組織をしっかりするところから始めないと。

悪いけど、球団経営にしても、学校経営でも選手云々より、フロント。大学で言えば職員の方がしっかりすると回っていく。スポーツのチームでもそうで、そこの部分、組織作り、チーム作りの中の選手じゃない役割分担が大事。

どのようなスポーツを位置付けにするのか、監督はどうだ、ビジョンはどうか、その辺を明確にすることが大事。それを作ってしまうと、以外と上手くいくと思う。ブレなかったら。そして、見える化する。

近大のスポーツのビジョンとかが表に出てきてない。高校生は近大でスポーツしたいと思っても、どこで判断したらいいのかわからない。

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(鈴木スポーツ庁長官が視察に訪れるなど近大のスポーツへの注目度は高い)

オリンピック選手輩出を目指す前にすべきこと

オリンピックに行きそうなクラブを強化するのはいいけど、学生の大会の集大成がオリンピックだから、間の部分が欠けているよね。

オリンピックという目標も、最終的に結果が出て、オリンピック目指しましょうというのは良いのだけど、その前に各クラブ自身がどういう位置づけにして、どうするのかが大事やだ思う。段階があるでしょ。最後はオリンピックでいい。

でも、その前に何をすべきか。スター選手で客がくるなんてごくわずかだから。ファイターズでも大谷翔平が辞めても、千人くらいしか客は減らない。

近大の学生さんって自校愛がないよね。やっぱり、なんやかんや言うたって、悪いけど大学としてクラブをどう位置づけするかが明確じゃなかったら、学生も試合を観に行こうと思わないよね。

今の広告宣伝も世耕さんが広報部に行ったからできてる訳で。それぐらいのリーダーシップがなければ、改革は難しい気がするね。

大学スポーツのスポンサーは学生だ

スポーツしている学生も基本的に誰からスポーツができる環境がもらえてるかと考えること。他の学生の授業料の一部も入っていると思う。誰から給料もらってるか聞いたら、社長や誰からっていうけど、ファンから。

ファンがなかったらファイターズはないわけ。近大の学生が減ったら、水泳もアーチェリーもクラブがなくなるわけで。まず、自分たちでこの環境は誰からもらってるんかっていうのを考える必要がある。

徐々に自分たちが学生の中に入っていって、試合見に来てくれとか言わなかったら無理。やっぱり、自分たちが試合をするだけという所から脱してない。

ただ単に、好きなスポーツだけやっといたらええんやっていうなら同好会でよいのでは。ガバナンスに取り組んでいかない限りは、なんとなく同好会の延長みたいな感じだから、そこが一番の問題やと思うね。

学校の公認のクラブとして活動するなら、どのクラブも同じ条件のもと、規則の中で運営されるべき。大学の代表として、試合に出ていくわけやからね。

その中で、体育会のクラブ活動としてやるんだったら、明確に目標を持ってやる。大学としての位置付けを明確にして、クラブ員も位置付けをわかっている状況にしないといけない。

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(巨人にドラフト2位指名された畠投手の登板試合、観客が少なく球団スカウトがよく目立つ)

成功事例を作るところから始めよう

花形クラブは、関関同立と試合をしたら絶対負けないとか。せめて、関西では1位にならないと。そのためには、やっぱり育てることが必要だと思う。

京大のアメフト部なんて大学から始めた選手が多い。でも、近大のクラブの多くは、門戸を開放してない。だからやっぱり、一般からやりたい選手をどんどん入れればよいのでは。

強いチームは、ファイターズもそうで、若い選手がどんどん出てくるから、下から突き上げられるわけよね。うかうかしてたらポジションなくなるよね。

まずはひとつ、どっかの部で試しにやって、成功事例を作っていかないと。これをどこがやるか。京大のアメフト部が法人化して、方向性がひとつ出てきたのかわからないけど。

最終的には、近大自身がメジャーリーグみたいにひとつの団体やと。例えば、近大のクラブ全体でスポンサーを集めるとか。リーグビジネスじゃないけど、それを各クラブで分配することもできる。近大で言うと、今一番手っ取り早いんは野球か水泳。野球は昔のイメージが残ってるから。水泳は入江選手とかがオリンピックで活躍したから。

既成概念壊しスポーツでも差別化図れ

近大で一つ言えることは、強くするにしても何にしても、まず近大の特徴というものが絶対必要。例えば、近大マグロから始まって実学の近大と言われているように、スポーツでも他大学との差別化が必要やね。

スポーツビジネスをやっていきたいって言う以前に、ルールも作らなあかんし、近大の体育会としてのガバナンスも明確にせなあかん。組織全体の目標を明確に作らない限りは、変わっていくことは難しいよね。

スポーツ界全体が、既成概念に囚われているよね。どんどん挑戦していかないと。スポーツビジネスって言っても、チームマネジメントだけじゃなく、グッズ販売、放映権、スポンサー収入もある。

そこまで、考えるなら既成概念を壊さなければ無理。ドーム(アンダーアーマーの日本の総代理店として有名)と組んだ関東学院大は、多分グッズもどんどん売れて、当然各クラブにお金が入ってくるはずだ。

ただクラブを運営するためにお金を集めたら良いいう考え方から、クラブを発展させて、尚且つ大学の位置付けとして、クラブの重要性を世間にわかるようにしていかないと。そのためにも、近大はスポーツで何がしたいのかを、今一度、明確にしなければならないと思う。

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(クラブビジョンを掲げようという提言が近大体育会のクラブに送られた)

【聞き手・構成】近大スポーツ編集部




 <アメリカの大学スポーツ>

(「The Big House」と呼ばれるミシガン大学が所有する、全米で1番大きいアメリカンフットボールスタジアム。2013年には、カレッジフットボール史上最多の11万5109人の観客を動員)

アメリカでは、大学フットボールと大学バスケが絶大な人気を誇る。アメリカの大学スポーツを統括するNCAA(全米体育会協会)の売上高は、NFLの9千億ドルに次ぐ8千億ドル規模。MLB、NBA、プレミアリーグを超える金額だ。

収入1位のテキサス農工大は年間1億9千万ドルを稼ぐ。試合はホームアンドアウェー方式で行われ、テキサス農工大は、10万人収容のスタジアムを有している。

人気の高いアメフト、バスケットボールには、プロとアマチュアの間で紳士協定があり、大学がプロの養成機関として機能しておりレベルが高いのも人気の要因。アメリカの体育会クラブは、各大学の体育局が一元的に管理している。

日本のスポーツ庁もNCAA(全米体育会協会)の商業的な成功にならい、日本版の組織の立ち上げを計画している。

一方で、アメリカの大学には体育会クラブを管理するアスレチックデパートメントに加え、レクリエーションデパートメントがあり、レクリエーションセンターと呼ばれる一般の学生が日常的に使えるトレーニングジム、体育館、グラウンドなどが充実している。

体育学生以外へのサービスも十分に行き届いており、誰でもスポーツに親しみやすい環境が整備されており、大学の体育施設の充実が受験する高校生に向けての重要なアピールポイントの一つになっている。

【参考文献】

Jリーグを遙かに凌ぐ、米大学NCAAの稼ぎ方(日経ビジネスオンライン)

NCAA FINANCES (USA TODAY)※アメリカの大学のスポーツ収入ランキング

The 25 Most Amazing Campus Student Recreation Centers(BEST COLLEGE REVIEWS)※アメリカのレクリエーションセンターのトップ25の紹介

<レクリエーションセンター>

体育館やプールやだけでなく、ボルダリング用の壁が設置されていたり、カヤックが体験できるコースを用意している大学まである。受験生への欠かせないアピールとしてスポーツ施設の充実がある。また、大規模な施設を運営するために、大学の学生がスタッフとして働いており、雇用も生まれている。

(シンシナティ大学のレクリエーションセンター。クライミング大会が開かれ、それに向け壁をアップデートしている様子)
【参考動画】ベネディクト大学のレクリエーションセンターの様子